エレベーターの鍵チラシ

「エレベーターの鍵」パンフレットより


■現代のノラたちへ


今回の『エレベーターの鍵』を読んで、イプセン

の「人形の家」を思い出した。夫と妻の関係性や

鍵を巡るエピソードなど、リンクしそうな部分も

あるが、アゴタ・クリストフが「人形の家」を意識

して、この作品を書いたかどうかは分からない。

「人形の家」の主人公ノラが家を出てから、どの

ようになったか、考えたことがある。とある人が

あの時代なら最終的には娼婦になるしかなかった

のではないかと言っていたが、夫の従属物から

ひとりの人間になろうとして家を飛び出したノラ

が結果的には男の性の従属物になるというのは、

なんというシニカルな見解だろう。 

わたくし的には、ノラはその後、社会運動家へと

身を転じ、ノルウェーにおける女性の普通選挙権

獲得のために奮闘するというのが、希望的後日談

なのだが。

                 

それでは、現代のノラたちはどうだろう。

   

今は、あの時代にあったような分かりやすい支配

関係というものは見えなくなって、支配する側は

より巧妙になり、「おまえのためを思って、すべて

をしてあげているのだよ」と言いながら、次第に

目には見えない頸木をはめていく。これは家庭の

問題を通り越して、社会の問題になっていく。

ノラの夫のヘルメルは、弁護士から銀行の頭取に

なるが、言うことが七変化する現代のヘルメルは、

弁護士から政治家になり、やがてこの国の支配者

になろうとしている。

            

そして、そういった男たちが作り出した支配構造は

「すべて国民のためにやってあげているのだよ」と

言いながらその実、権力のために原発を作り続ける。

そんな人間の言葉を信じない現代のノラたちは、

金曜日に子供をつれて、官邸前でデモをする。

自分たちの声だけは失うまいとして。

一番怖いのは、何もしないことだと信じて。

                    

■スタッフ


演出/美術・・・長野 和文

照  明・・・・古川 睦子

音  響・・・・吉岡 歩

舞台協力・・・・田中 新一(東京メザマシ団)

宣伝美術・画・・濱口 真央

協  力・・・・東京バビロン

企画制作・・・・池の下


■キャスト


女1  稲川 実加

女2  芹澤 あい

夫   平澤 瑤

医師  伊藤 全記(劇団ING進行形)


PROFILE