「狂人教育」は、もともとは寺山修司が人形劇団に
書き下ろした作品だ。人形が演じることを想定して
いる。池の下では、これを2006年に人間の俳優が
演じる形で上演した。なぜ、人形劇を人間が演じた
のか。それは人形劇にある「登場人物が何ものかに
よって操られている」という仕組みそのものが、
メディアなどの情報によって操られている現代人の
姿と重なると思ったからだ。この舞台を2007年に
韓国や中国でも上演したが、とくに中国ではこの
劇を政治的メッセージとして受けとめる観客が
多かった。
それから10年以上がたち、ポーランドの劇場から
招聘されてこの舞台を再演することになった。
初演時のコンセプトは「情報によって自分を見失って
いる人たちを描いた現代の寓話」ということだったが、
10数年たった今、メディアやソーシャルネットなどの
情報は当時と比較にならないくらいに巧妙に操作され
管理され、何ものかの意のままに操られている。これ
は日本だけの問題ではない。グローバルな現象として
今まさに進行している。
ポーランド公演では、この劇を現代に生きる私たちが
直面している課題、さらにはこのさき私たちに訪れる
かもしれない問題ととらえる人たちが多かった。将来的
にわれわれを操るものは情報だけではなく、AIや遺伝子
操作などさまざまな分野に広がっていくだろう。
そんな状況のなかで操りの糸を切るにはどうしたらいい
のか。現代社会を生きている限り、操りの糸を切ること
は不可能なことなのかもしれない。しかし、いつの日に
かこの糸は切ることができる、その事を信じて今日も
芝居を作り続けている。
長野和文
■スタッフ
演出/美術・・・・・長野 和文
照 明・・・・・・安達 直美
音 響・・・・・・高沼 薫
舞台監督・・・・・・田中 新一
制作協力・・・・・・潮田 塁
宣伝美術(画)・・・松本 潮里
記録写真・・・・・・鏡田 伸幸
記録映像・・・・・・井野口 功一
企画制作・・・・・・池の下
■キャスト
蘭(小児麻痺の女の子)・・・・・・・・・・・青木五百厘
祖父(やぶにらみで船の設計士)・・・・・・・深沢幸弘
祖母(猫が大好き)・・・・・・・・・・・・・岩切チャボ
パパ(吃り、ベルリオーズの熱狂的ファン)・・SUMIO
マユ(淫蕩な蘭の姉)・・・・・・・・・・・・井口香
鷹司(蘭の兄、虚無的な詩人)・・・・・・・・平澤瑤
人形使いもしくは蝶1・・・・・・・・・・・・桜亨士郎
人形使いもしくは蝶2・・・・・・・・・・・・直井よしたか
■協力
高津装飾美術株式会社 中村エリト
ロングランプランニング株式会社
二都物語